Defeat

20160911 sun　「行動不能という事態を初めて考えた」

僕が遭難するわけない。君が遭難するわけない。
どこかで、そんな風に心の片隅で考えながら入山していないかい？
山岳のリスクは考慮しながらも、どこかで自分は大丈夫って思ってないかい？

落石だって雪崩だって体調不良だって、自身が把握できないだけで突然やってくる。
登山人生十数年の中で最悪の撤退を経験する日がやってくるとは思わなかった。
動けなくなればビバークすればいい。だが次のステップはどうする？

もし単独行の場合、スマホの電波が繋がらなかったら救助要請はどうする？
僕は幸いにも心優しき仲間と入山していたから無事だったのかもしれない。
もし撤退せずに突っ込んでいたら間違いなく要救助者になっていただろう・・・

登山口で前夜泊。標高1300mの深夜は気温15度ほどに下がっていた。
体温の高い好人ちゃんはシャツ一枚で適温らしい・・・
体脂肪率8%の僕とハッスンは途中から寒くなり、
ナンガ300のシュラフを体に巻き付けて宴を続けた（笑

彼のウワサ話や、彼女のウワサ話、等々・・・知らぬが仏・・・ああ無情・・・

酷暑は去った朝。乾いた空気は秋を存分に感じる。
木陰ではひんやりとした微風が心地良い。

朝飯は日清のカレーメシ・シーフード。美味し！♫
だが「待て！」の5分は長い・・・

ハッスンの入渓パ○○トスタイルは、ほぼ変態仮面を想像していただければと（笑

知った車が駐車していた♫

登山口からの登りを20分ほどで分岐に到着。
この辺りから体調の異変を感じていた。
ここからゲキ下りの斜面を1時間ほど下降すれば赤井谷の沢筋に到着する。

登山口から標高差100mほど登るなんてことない一般登山道。
何度歩いたか分からないくらい歩いた道。
ザックの中は日帰りの沢道具だけ、10kgにも程遠い重量だろう。

数分歩けばすぐに距離が離れてしまう。
下りだというのに心拍数はハンパなく急上昇している。
時折、二人に待ってもらい肩で息をしながら呼吸を整える。
座り込んで数分の休憩後に立ち上がると目眩を覚える・・・
立ちくらみのような感覚が襲ってくる。

ムカムカと気分が悪くなりつつある感覚も出てきた。
昨夜の飲酒量は350mlのビアが3本と25度の焼酎200mlのみ。
普段より少ない飲酒量は二日酔いにも程遠い考える。
睡眠時間も5時間以上は確保できている。

気温も夏のような 蒸し暑さはなく樹林帯では熱中症とも考えにくい。
心拍数を確認するために頻繁に指を動脈に当てる。
右掌を心臓に当ててみる。
「ドクッドクッ・・・ドクドクドク・・・ドーックドクッ」
ん？　不整脈か？　素人判断だが不安は更に広がってゆく・・・

何度も何度も二人に待ってもらい9時半頃に沢に辿り着いた。
ここから沢登りを始めれば4〜5時間は行動しなければ下山できない。
好人ちゃんとハッスンが判断を委ねてくれた。優しい仲間だよ。

僕は大いに悩んだが不安は払拭できず残念ながら「撤退」を選んだ。
二人は笑顔で「来年またリベンジやね！」と労ってくれた。
会話するのも億劫なほど僕は疲弊していた。心の中で二人に手を合わせていたんだ。

まともに歩けない僕のザックはハッスンが背負ってくれた。
好人ちゃんは少しでも歩きやすいルートをセレクトしようとしてくれた。
踏み跡があったりなかったり、バリルートには痛い痛いイバラも多い。
二人には感謝しかない。

ゲキ登りを10歩登ってしばし休憩、15登って立ち止まり呼吸を整える。
異常な心拍数と目眩に恐怖がのしかかってくる。
心不全？　心筋梗塞？　悪いイメージしか湧いてこない・・・

登山人生で初めて行動不能になった時のイメージを不意に考えた。
もし僕が動けなくなったらどうする？
たぶん好人ちゃんがダッシュで下山し車でスマホの電波が届くところまで走って
救助要請をするだろう。医療関係に従事するハッスンは僕に付きそうだろう。
意識が朦朧とする頭で要らぬ妄想が膨らんでゆく・・・

イメージとしては肺と大腿四頭筋が半分以下になったような感覚なのだ。
いわゆる人として活動できない身体能力に落ち入った気分なのだ。
僕は真面目に必死に生還することだけを考えた。
ようやく登山口近くまで帰還した頃、堪えきれずに激しく嘔吐した。
自分でも驚いた。嘔吐などいつ以来か記憶すらない。
学生時代に持久走の後に心肺機能がいっぱいいっぱいになり嘔吐した感覚に近い。
久しぶりの独りシャワークライミングはかなり疲れる行為なのだ・・・

二人の懸命な介護登山でなんとか無事に下山できたが、
車に戻っても体調は回復せず九十九折の林道でも嘔吐する体たらく・・・
夢の湯で温泉に浸かり昼寝してようやく少し回復できたようだ。
今後、再び繰り返すようなら迷わず検査入院でもなんでもするつもりだ。

ハッスン、好人ちゃん、ホントにホントにありがとうございました。
二人には心配も迷惑もかけて心より謝罪いたします。
そして心より感謝いたします。

もんどりうって林道に大の字になる。
口からも鼻からも目からも色々と漏れてくる・・・
木漏れ日の向こう側・・・
晩夏の長月、見上げた空は悲しいほど蒼かった。