Underdog again

20130714sun　無様な顛末と自己嫌悪

あの、最初に断っておきます。今回は山の話も道具の話もありません。馬鹿な依存症の愚痴話ですのでどうぞスルーしてくださいませ。

7月の三連休。当初は劔岳のバリエーションルートである長次郎谷（ちょうじろうたん）を画策していた。新田次郎の小説「劔岳 点の記」が映画化され2009年に公開されてから劔岳ブーム再燃の混雑は酷く入山を躊躇していた。小説を読んでいたから映画も観た。そして僕は長次郎のコルに立ち振り返った時に宇治長次郎の目線を微塵でも感じてみたいと想いを廻らしていた。それに長次郎コルからは北に向かって延びる長次郎ノ頭、小窓ノ頭へと続く憧れの北方稜線ルートを見渡せる。その長次郎コルから南側へ歩く劔本峰までも北方稜線ルートなのだ。

そして特に想いのこもったこの記事は何度読み返したことだろうか。秀逸なショートストーリーに巡り会えた様な気分であった。その点の記・単独行から二年の歳月が流れた。劔岳ブームも多少は沈静化しているであろう。深いクレパスや無音落石のリスクも有るが、多少なりとも登攀の経験を積んだkumiちょをコンティニュアスして、最大斜度40度になるという長次郎コル手前の雪渓を楽しもうと思った。本峰を踏みカニのヨコバイを通過後は平蔵のコルから平蔵谷（へいぞうたん）の急峻な大雪渓を劔沢へ下れたら本望だろう。

だが直前の天気予報は最悪。梅雨明けした筈の梅雨前線の南下に伴い北アルプス北部は三連休とも雨マークが並ぶ。kumiちょを連れて降雨時の岩稜帯通過は遠慮したい。ならばと断腸の思いで直前に計画を大きく変更した。多少なりとも太平洋高気圧の恩恵を受けそうな南アルプスがまだ天候も安定しそうに思われた。多少は盛りの頃は過ぎた感ありありなキタダケソウに会いに行きますかってことで土曜の午前中に自宅を出発した。

予想ぐらいしておけよって話なのだが名神高速上り線の大渋滞に巻き込まれる。フツーは夜中か早朝に走り渋滞回避するのがセオリーでしょ！と自分を詰る。お陰で戸台の仙流荘1410発の北沢峠行き最終バスに間に合わない失態。広河原でまったりキャンプの筈が仙流荘前駐車場に車中泊決定という体たらく。夕方、霧雨はやがて本降りとなり車内にて行動不能状態が続く。仙流荘バス営業所の自販機で大人買した缶ビールをプシュッ！な音が何度も続く車内。学習能力の低い依存症は晩飯の頃には焼酎へと移行し程なくバーボンへと流れてゆく泥酔パターンな山より宴が続いた。

翌朝の仙流荘始発は0605だが5時頃から順次臨時バスが出るという。僕達は一応5時頃には起床し準備にかかるが、しっかり二日酔いであった。朝食を摂る気分には程遠い。何度も嗚咽を繰り返す老犬は朝からぐったり・・・。いや、ほんと学習能力の低さは天下一品だわ・・・あぁ情けない。仙流荘から北沢峠まで九十九折りの道を小一時間。当然満員のバス。22kgのデカザックは膝の上。窓は全開だが気分の悪さも満開だ。二日酔いはやがて乗り物酔いを加えた相乗効果で脳に内臓に襲いかかってくる。勘弁してくれよ〜と自身を呪いながらも全身に脂汗が滲むのを感じる。北沢峠に着いた頃には足下はヨレヨレになっていた。根性でトランジットして広河原までこれまた満員御礼なバスは半時間ほども走る。

大体入山するのに駐車場からバスを乗り継ぎ二時間近くもかけて登山口まで行く行程が他に何処に有る！！と悪態をつき。今年の木曽駒もそうだったが駒ヶ根界隈とは相性が悪いのだ！！と悪態をつき。アルプスと言えば北アだろ！！昔から南アとは縁が薄かったのだ！！と悪態をつき。大樺沢出合から吊橋を渡り嗚咽を絶え間なく届かせながら広河原山荘の前に脂滝汗で仁王立ちした。分岐は二股へ進む。五歩進んではスタンダップレスト・・・そして嗚咽。kumiちょペースに付いて行けないどころか、山ガール1年生的な女の子達にバンバンオーバーテイクされる。通常ならこちらが20kg担いでいようともコーナーでアウトインアウトでサクッとパスする山ガール達のスリップストリームにさえも付けない非力なエンジンパワーだ。8000mのデスゾーンを無酸素単独で五歩進んでは休み喘ぎ苦しむアルピニストをも凌ぐ牛歩だろう。

当然だが食欲はまだ無い。ハンガーノックとか想像することさえ疲労感を覚えた。今日中に北岳山荘テン場に付くのだろうかとか、標高差1500mを登れるのかとかまったく想像できなくなっていた。端的に言えばまるで楽しくないと感じていた。登山人生で初めて沸き上がった感覚だった。疲弊感は愚かな自分の行動を増幅してくれるには十分だった。そんなとき後からkumiちょが一言。明瞭な発音だが静かに僕に質問してきた。

「どーするのん？」

・・・・kumiちょなりの優しさなのは解るが、鈍器で殴られたような、悪魔の囁きのような、いや、僕の深層心理を見透かされていたのだろう。沢の側でザックを置き帽子とメガネをとり沢の水で何度も顔を洗った。冷たかった。緩みきった自分の行動が悲しかった。僕に頂を目指す権利など無いのだ。kumiちょがそれを諭してくれたのだ。kumiちょにはとても悪い事をしたが仕方ない。放棄した僕の権利をこの日は行使できない。

「ごめん・・・帰ろう・・・」 

kumiちょは、また来たらえーやんと言ってくれる。カロタンも心配やし、はよ帰ろーと言ってくれる。愚かな老犬に対して数段大人なコチビの言葉に情けなく自己嫌悪な帰りのバスの道中だった。

kumiちょと約束した事。
休肝日を作る事。
入山前夜は麦酒だけでハードリカーには手を出さない事。

左足の種子骨障害に右足の腸脛靭帯炎に最近はとうとう五十肩まで始まった。
肉体も精神も変わらなければいけない年齢なのだろう。
劣化速度を極力遅くするべく必要な努力をするべき時が来たのだろう。
前を向いてボチボチ頑張るべ・・・